福島地方裁判所 昭和60年(わ)321号 判決 1986年2月17日
本籍
新潟県古志郡山古志村大字竹澤乙八六九番地
住居
福島県河沼郡会津坂下町大字気多宮字新田向七二八番地
会社役員
高野貞治
昭和一三年一〇月二八日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官河野芳雄、弁護人鈴木芳喜各出席のうえ審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金二一〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金三万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和四六年八月、これまで東京都内で経営していた大衆浴場を廃業したうえ、茨城県鹿島郡波崎町で、簡易旅館「モーテル松下」を開業したところ、その後、右経営が順調であったことから、昭和五〇年一〇月、福島県河沼郡会津坂下町大字気多宮字沼尻五四五番地の一で、簡易旅館「ホテル七折」を、昭和五二年七月、前記「モーテル松下」の売却金を元手に、同町大字気多宮字沼尻五五〇番地で、簡易旅館「ホテルおもいで」をそれぞれ開業し、昭和五四年には、建築費等約四〇〇〇万円の資金を投入して、右「ホテルおもいで」を六棟増築し、昭和五五年一二月、同県会津若松市東山町大字石山字慶山四五三番地所在の、「ホテル若喜」を九〇〇〇万円で落札したうえ、昭和五六年四月、同所に簡易旅館「ホテルやわらぎ」を開業し、同年九月には、建築費等約三〇〇〇万円の資金を投入して、二室の増築を行ない、昭和五八年八月、同県河沼郡会津坂下町大字気多宮字沼尻六〇九番地の一の、簡易旅館「ホテルベルサイユ」を約七〇〇〇万円で買受けて、同所に同じ名称で簡易旅館を開業して、主として、自動車利用者を対象とした、いわゆるモーテル経営として、爾来、右「ホテル七折」、「ホテルおもいで」、「ホテルやわらぎ」、「ホテルベルサイユ」をいずれも個人経営していたものであるが、モーテル経営の将来に不安があったほか、昼夜の別なく働いて得た所得の多くを税金として納付するのでなく、これを家族の将来にわたる生活資金として蓄えるため、自己に対する所得税を免れようと企て、右経営の会計事務を担当していた妻の珪子に指示して、売上げの一部を正式の帳薄類の記載から除外して、これを架空名義の頂金にするなどの不正手段により、その所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五六年分の実際の総所得金額が、別紙(1)の「修正損益計算書」記載のとおり、金四五六九万六九二五円で、これに対する所得税額は、別紙(2)の「脱税額計算書」記載のとおり、金二一四三万五〇〇円であったにもかかわらず、昭和五七年三月四日、福島県会津若松市城前一番八二号所在、所轄の会津若松税務署において、同税務署長に対し、別表(1)の「修正損益計算書」記載のとおり、総所得金額が一六九九万九二七六円で、これに対する所得税額が、別紙(2)の「脱税額計算書」記載のとおり、金五一四万五〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和五六年分の正規の所得税額金二一四三万五〇〇円と右申告税額金五一四万五〇〇円との差額金一六二九万円の支払を免れ
第二 昭和五七年分の実際の総所得金額が、別表(3)の「修正損益計算書」記載のとおり、金七三一二万四二七三円で、これに対する所得税額は、別表(4)の「脱税額計算書」記載のとおり、金三九六一万七一〇〇円であっににもかかわらず、昭和五八年三月一五日、前記会津若松税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が、別表(3)の「修正損益計算書」記載のとおり、金二一一三万三一六二円で、これに対する所得税額が、別表(4)の「脱税額計算書」記載のとおり、金七二〇万円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和五七年分の正規の所得税額金三九六一万七一〇〇円と右申告税額金七二〇万円との差額金三二四一万七一〇〇円を免れ
第三 昭和五八年分の実際の総所得金額が、別表(5)の「修正損益計算書」記載のとおり、金七三一三万九八〇円で、これに対する所得税額は、別表(6)の「脱税額計算書」記載のとおり、金三九七二万五六〇〇円であったにもかかわらず、昭和五九年三月一五日、前記会津若松税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が、別表(5)の「修正損益計算書」記載のとおり、金二五九五万七三二四円で、これに対する所得税額が、別表(6)の「脱税額計算書」記載のとおり、金九八二万一九〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和五八年分の正規の所得税額金三九七二万五六〇〇円と右申告税額金九八二万一九〇〇円との差額金二九九〇万三七〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示の各事実につき
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 被告人の大蔵事務官(昭和六〇年一月一七日付、一月一八日付二通、二月二八日付二通、五月一五日付二通、五月一六日付、五月二〇日付二通、五月二三日付四通、五月二四日付二通一五丁と四丁のもの、六月四日付大蔵事務官工藤昌士作成の借入金調査書を添付、六月五日付四丁のもの、六月六日付、六月七日付二通、六月八日付、六月一四日付六通、七月一日付)に対する各質問てん末書
一 高野珪子の検察官に対する供述調書
一 高野珪子の大蔵事務官(昭和六〇年二月二六日付、四月一六日付、五月一五日付、六月八日付二通、六月二一日付、七月一一日付)に対する各質問てん末書
一 酒井巖の大蔵事務官に対する質問てん末書
一 会津リネンサプライ株式会社常務取締役辻澤悦夫作成の「取引の内容について」と題する書面
一 税理士田辺善昭作成(提出者は被告人)の昭和六〇年五月一三日付、六月七日付、一〇月二二日付各上申書(前者の二通については、税理士薄井今朝一が確認)
一 やじま食材株式会社経理担当岩橋千恵子作成の上申書
一 福島協和信用組合本店長佐藤照夫作成の上申書
一 会津坂下農業協同組合貯金推進係長永山四郎作成の上申書
一 会津坂下町商工会貯蓄貸付担当斉藤啓一作成の上申書
一 会津坂下農業協同組合八幡支所長高畑和夫作成の上申書
一 協栄石油販売株式会社経理担当川嶋とも子作成の上申書
一 大蔵事務官工藤昌士作成の減価償却資産関係調査書(昭和六〇年六月六日付)
一 大蔵事務官白坂哲夫作成の専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、事業専従者控除調査書、雑所得調査書各一通
一 会津坂下保健所長の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面二通
一 福島県会津若松保健所長作成の「捜査関係事項照会について(回答)」と題する書面
一 大蔵事務官工藤藤昌士作成の頂貯金等調査書、貸付金等調査書、借入金等調査書各一通
一 大蔵事務官工藤昌士作成の脱税額計算書説明資料二通
判示第一、第二の各事実につき
一 大蔵事務官白坂哲夫作成の譲渡所得調査書
判示第一の事実につき
一 被告人の大蔵事務官(昭和六〇年六月五日付一〇丁のもの、八月二〇日付、八月二二日付、九月一九日付、一〇月二二日付被告人作成の「売上について(やわらぎ)」と題する書面を添付)に対する各質問てん末書
一 高野珪子(昭和六〇年一〇月二二日付)、田辺善昭(同年一〇月二六日付)、北原一子の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 押収してある昭和五六年分の所得税の確定申告書(一般用)一枚(昭和六一年押第五号の一)、昭和五六年分所得税青色申告決算書(一般用)五枚(同号の二)
一 大蔵事務官工藤昌士、同白坂哲夫共同作成の昭和六〇年一〇月一二日付調査報告書
一 大蔵事務官工藤昌士作成の脱税額計算書二通(自昭和五六年一月一日の分、更正前と更正後のもの)
判示第二、第三の各事実につき
一 被告人の大蔵事務官(昭和六〇年五月二四日付、一九丁のもの)に対する質問てん末書
一 田辺善昭(昭和六〇年六月六日付)、高久健、高野源作の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 福島相互銀行坂下支店長代理山手鉄雄作成の上申書
判示第二の事実につき
一 押収してある昭和五七年分の所得税の確定申告書(一般用)二枚(昭和六一年押第五号の三)、昭和五七年分所得税青色申告決算書(一般用)五枚(同号の四)
一 大蔵事務官工藤昌士作成の脱税額計算書(自昭和五七年一月一日の分)
判示第三の事実につき
一 諏訪定義(二通)、小林鶴子(二通)、安斉健裕、皆川秀子の大蔵事務官に対する各質問てん末書
一 有限会社国際装飾事務員小林恵子作成の上申書
一 福島協和信用組合猪苗代支店長代理安斉健裕作成の上申書
一 福島協和信用組合駅前支店長信野廣作成の上申書
一 大蔵事務官工藤昌士作成の脱税額計算書(自昭和五八年一月一日の分)
一 押収してある昭和五八年分の所得税の確定申告書(一般用)二枚(昭和六一年押第五号の五)、昭和五八年分所得税青色申告決算書(一般用)四枚(同号の六)
(法令の適用)
被告人の判示第一ないし第三の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項、一二〇条一項三号に該当するところ、判示の各罪につき、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を選択し、同罰金は、情状により所得税法二三八条二項を適用して、各免れた所得税額に相当する金額以下とし、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重いものと認められる判示第二の罪の刑に法定の加重をなし、罰金刑については刑法四八条二項により、各罪で免れた所得税額に相当する金額を合算し右刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年および罰金二一〇〇万円に処し、被告人において右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金三万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、情状により、同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間、右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して、被告人にこれを負担させることとする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 野口頼夫)
別表(1) 修正損益計算書
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
<省略>
別表(2)
<省略>
別表(3) 修正損益計算書
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別表(4)
<省略>
別表(5) 修正損益計算書
自 昭和58年1月1日
至 昭和58年12月31日
<省略>
別表(6)
<省略>